エンジニアリング・レポート作成ガイドラインについて

㈱東京建築検査機構 調査診断事業部

 弊社のエンジニアリング・レポート(ER)は、(社)建築・設備維持保全推進協会、(社)日本ビルヂング協会連合会「不動産投資・取引におけるエンジニアリング・レポート作成に係るガイドライン」(BELCAガイドライン)の考え方に則って作成されております。ただし、現段階においてBELCAガイドラインには、明確な基準化がなされていない部分が数多くある状態です。弊社におきましては、この不明確な部分についての補足を行うと同時に現実に即していない部分について改良を加え、ERの作成ガイドラインを設定しております。詳細は、別紙「エンジニアリング・レポート作成ガイドライン」および綜合ユニコム㈱「投資用不動産デューデリジェンス実務資料集」をご参照いただきたいと思いますが、調査項目ごとのBELCAガイドラインとの整合性および主な補足・改良点は、下記の通りとなっておりま

1.ERの有効期限

BELCAガイドラインでは、報告書の発行日を以って「調査時点」とし、特に有効期限については言及していません。弊社においては、現地調査を行った日をERの「作成基準日」とし、ER発行日を「公式基準日」とします。ERの有効期限は、発行日から3か月としております

2.遵法性調査

BELCAガイドラインでは、建築基準関係規定とは、都市計画法、建築基準法、消防法、各自治体の条例(指導要綱等)、バリアフリー新法、旧・ハートビル法等の法令等をいうとしており、「関係する法令についてはできうる限り把握し調査することが望ましいが、時間的制約と資料等の制約の中で、法律の知識と解釈は自らの経験と能力によることが大きい」としています。弊社においては、耐震改修促進法、省エネルギー法、ビル管理法、水道法、電気事業法、浄化槽法についても対象とすることを明記し、さらに法律、施行令、施行規則、施行細則、関係告示、条例までをER(フェーズⅠ)の調査範囲とし、行政指導である指導要綱についてはフェーズⅡの「適合性詳細調査」(オプション業務)で行うこととしております。

3.有害物質に関する調査

BELCAガイドラインでは、アスベスト、PCB、仕上塗料、ラドン、フロン、ばい煙等排出ガス、危険物・特殊薬液貯蔵施設、空気環境、飲料水質、空気調和設備用水質、雑用水水質、害虫・害獣防除、排水関係、産業廃棄物、ラムサール条約湿地の15項目を対象とし、その中で調査から除外している項目がある場合は、その旨を記載するものとしています。弊社においては、危険物・特殊薬液貯蔵施設、産業廃棄物については個別状況に応じて対応することとし、仕上塗料、ラドン、ラムサール条約湿地については除外しております。

4.土壌汚染リスクに関する調査

BELCAガイドラインでは、フェーズⅠ評価は「既存情報の確認」「現地調査」「ヒアリング調査」「報告書作成」という4つの要素から構成されるとし、各要素の内容について記述しています。ただし、ERにおける業務範囲については明確に言及していません。弊社においては、旧版住宅地図等による当該土地および周辺の土地利用履歴調査に基づいて、土壌汚染のおそれの有無を判断し、土壌汚染の可能性がある場合にはフェーズⅡの「土壌ガス・表層土壌サンプリング調査」(オプション業務)を行うこととしております。なお、委託者の要望によりフェーズⅠの全要素を網羅した調査結果を、ER本編に記載することがあります。また、個別の「フェーズⅠ報告書」(オプション業務)として纏める場合もあります。

5.修繕・更新費用の算定

BELCAガイドラインでは、ERにおいては基本的に短期修繕更新費用と長期修繕更新費用に分けて費用を算出するものとしています。また、短期修繕更新費用は、緊急を要する修繕更新費用と短期修繕更新費用(1年以内)に区分されるとしています。長期修繕更新費用の算出期間は、「契約前に委託者と決定するが、一般的には10、12、15年の算出期間が多い」としています。修繕更新周期については、「BELCAの基本データを参考にして、各社が把握したデータベースを加味して設定することが多い」としています。弊社においては、緊急修繕費、短期修繕費および長期修繕更新費に分けて費用を算出し、長期修繕更新費の算出期間は15年を標準としております。委託者の要望により10年、12年あるいは20年(オプション業務)、30年(オプション業務)にわたる長期修繕更新費の算出を行うことが可能です。修繕更新周期は、BELCAの基本データ(建築物のLC評価用データ集)を参考に弊社が設定した「標準修繕・更新周期一覧表」に基づいて設定しております。修繕・更新費用は、建物全体について算出するのが基本ですが、資産区分がある場合には、委託者の要望により区分所有割合等に基づいて指定の資産区分を対象として算出いたします。なお、修繕更新には機能向上分は含まず、原設計の機能・性能レベルへの復旧を前提としております。機能向上分を含む改修費用算出(バリューアップ、コンバージョン)は、別途の業務(オプション業務)となります。

6.再調達価格の算定

  BELCAガイドラインでは、再調達価格の設定には、当該建築の工事請負契約書等の分析による設定方法(方式1)とER作成者が独自に有する概算手法を用いて概算コストを算定する手法(方式2)とがあるとし、方式1と方式2を比較し、更に最近の類似物件、建設費の情報等を考慮した後、再調達価格を決定するとしています。弊社においては、上記の方式2を基本として再調達価格を算定し、工事請負契約価格が判明する場合、この価格に建設物価の推移などを考慮し参考としております。建設費の内訳は、「建築工事」「電気設備工事」「給排水衛生設備工事」「空調設備工事」「昇降機設備工事」「機械駐車設備工事」「外構工事」「ゴンドラ設備工事」「大規模広告塔等の設置工事」「諸経費」の大項目単位にて算定します。なお、委託者の要望により中項目・小項目単位で「詳細再調達価格の算定」(オプション業務)を行うことがあります。

7.地震リスク評価

BELCAガイドラインでは、PML(Probable Maximum Loss)を「シナリオ地震発生による対象施設あるいは施設群の損失額あるいは損失率の90%非超過確率に相当する損失額あるいは損失率をいう」と定義しています。また、分析手法については「詳細分析(解析的な方法)」と「簡易分析(統計的な方法)」のうち、詳細分析を原則とするとしています。弊社においては、(社)日本建築学会の「建築物の安全性評価ガイドライン小委員会 報告書」(2010年3月)より、PMLを「50年間での超過確率10%の損失に生じる地震による90%非超過損失」と定義しています。また分析方法は詳細分析によることとしております。

以上