ERの建物診断は「人間ドック」
エンジニアリングレポート(ER)を作成する際、現地調査・開示資料・ヒアリングが診断評価の基本的な根拠になる。このうち、現地調査は「ある季節における、晴天あるいは雨天等の限られた気象条件」のもとで「目視」によって行われる。コンクリートの抜取り検査を行うことはなく、壁面タイルの浮きなどを精査することはない。設備機器の運転チェックも行わない。調査時間も、1~2時間とか せいぜい半日程度であることが多い。
つまり、「現地調査とは、その程度のもの」である。反面、それは「人間ドックの血液検査のようなもの」で、これによって対象建物の“健全度”がかなりの程度 把握できる。「たかが現調、されど現調」なのである。
人間の健康の場合を考えると、人間ドックそのものよりも「それ以前の日常生活」が大事であり、仮に人間ドックで何か変調が確認された場合には、「その後の精密検査」や「治療および以後の健康管理」が必要になることは言うまでもない。
建物診断も同じで、「以前」と「以後」が大切と考えられる。以前とは、当該建物の「設計」「建築確認手続き」「施工」「日常管理」「修繕・改修」などのプロセスのことである。これらの行為が適切になされており、その記録(各種図面、確認済証・検査済証、各種定期点検記録、修繕履歴etc.)が残されていることが、的確な診断評価の前提条件になる。
以後に当たるものとしては、まず「2次診断」の重要性をアピールしたい。人間ドックのバリウム検査で「胃に何らかの問題がありそう」なときは、「胃カメラ検査」や「胃壁の組織分析」
などを行うように、ER作成時の建物診断で何らかの問題点が見つかった場合には、その問題についての詳細調査を行うことが必要になる。
人間の場合、その人の遺伝的な条件あるいは生活習慣からの影響によって、「消化器系が弱い」「循環器系が弱い」「泌尿器系が弱い」などの“個体差”が生じる。同様に、建物の場合も「遵法性に問題がある」「構造面や物理的な劣化状況に問題がある」「土壌やアスベスト等の環境面で問題がある」などの個別差がある。そして、ほとんどの既存建物は「何らかの問題点を抱えている」と言っても過言ではない。
したがって、「遵法性2次診断」「構造・耐震性の診断」「地震リスクPML詳細診断」「土壌汚染状況調査」「アスベスト等有害物質サンプリング調査」などの2次診断を、建物ごとの特性に応じて行うことが必要になる。
くわえて、日常の維持保全の重要性についても訴えたい。建築基準法などによって、一定条件の建物には「特殊建築物等定期調査」「建築設備定期検査」「消防用設備等の定期点検」などが義務づけられている。建物の所有者・管理者および法定点検の実施者(有資格者)が、定められたルールに従って建物部位・設備機器等について調査・点検することになっている。しかし、実際には定められた期日までに実施されていなかったり、調査・点検の内容が形骸化している例が数多く見られるのである。有資格者が「名義を貸しているだけ」で実態を十分に調査していないのではないか、と思わせられる定期報告書を目にすることもある。そして、その報告書には監督機関の受領印が押印されている。つまり、報告を受ける側も「めくら判」を押しているということになってしまう。
今後は、ER作成(現地調査等)という1時点だけでなく「以前」「以後」という長い期間にわたって、かつER作成レベルのデューデリジェンスに「2次診断(ちなみに、その後の3次診断は是正・対策を目的とした詳細診断)」レベルのものも組み合わせて、適切な維持保全・調査診断が行われることが望まれる。それが、健全な建物ストックの増大につながると考えられる。
取締役 調査診断事業部長 高橋公夫






















